ベストセラーということだけど、なんだか難しそう。マンガ版なら読めるかなと思って手に取りました。

全人類がこの本を読んだら、世界が変わるんじゃないだろうか?そう思えるような、世界の見方が今までと変わる読書体験を得ました。

 

人類の歴史と制度の暴露本?

A4より少し小さいサイズ、厚めのしっかりした紙で 250ページある、ずしりと重い一冊です。海外ものの「マンガ」は読み慣れた「漫画」とは雰囲気が違い、感覚的には「絵本」を読んでいるようでした。

読み終えて印象に残ったのは2つ。一つは、人類が農耕の道を選んだことが、繁栄ではなく地獄への入り口だったという話。

農耕や酪農を始めたおかげで人々の生活が安定し、それによって文明が発展し国家が生まれて人類は繁栄した、それが常識だと私は思っていました。農業革命が悲惨な結果をもたらす悪魔との取引だったというこの本の考えに私は驚き、どうしようもなくそうならざるを得なかったという意外性のある話に惹き込まれました。

印象に残ったもう一つは、宗教も貨幣も国家も幻想、それは作られた「物語」でしかないというお話です。

人類の社会の変化は早すぎて、生物としてそれに対応するだけの時間が足りなかった。そのため、蟻や蜂のような大規模協力の本能を人類は持っていない。そこで、人類が本能無しでも協力し合えるように、万人が共通で信じる「物語」が必要だったというのです。

法律や憲法、神の存在など、大切なのはそれが真理かどうかではなく、その「物語」を万人が信じ、社会に秩序をもたらすために役立つかどうかなのだと。

確かに、一万円は自然の単位でもなんでもないけれど、「一万円てこれぐらいの価値」という万人の共通認識があります。一万円札という紙片に価値があるという「物語」、それを万人が信じている。ただそれだけのことを土台にしてこの世の中回っているんだなと考えると、社会の秩序とはなんとも脆く、不確かなものに見えてきます。

 

農業革命の罠を現代社会に当てはめてみる

農業革命前後の人類の比較を見て、私は現在と江戸時代の人々の生活を思い浮かべました。

人口の多さや便利さ、どこへでも行けてなんでも言える自由を得たけれど、果たして現在の人々のほうが幸せなのでしょうか?蛇口をひねれば水が出て、スイッチひとつでご飯が炊ける。家事はとてつもなく楽になったはずなのに、子育てに忙殺されて疲れ果てているのはなぜなんでしょう?

今現在、IT の革命によって人類は新たな地獄に向かっているのではないかとも思えてきました。

IT化が進み、同じ仕事をこなすことは以前より遥かに速く楽になりました。しかし、そのことでより多くの仕事をこなさなければならなくなり、以前のようなスピードはもう許されない世の中になっていないでしょうか?

ネットで調べればすぐわかるんだから、知らないということももう許されないのでは?携帯があるんだから、連絡がつかないということも許されない。

これで、幸せになったと言えるでしょうか?仕事や勉強の効率は格段によくなったけれど、それが当たり前になって、さらにその上をいかないと幸せになれない。皆が IT に追われて生きている「IT地獄」ではないでしょうか。

 

戦争に見える「物語」の恐ろしさ

2022年にロシアが始めた戦争、これは戦争じゃないんだ人々を開放するための戦いなんだと支持する人々がいることが信じられませんでした。

私はこの戦争を支持しません。そして、支持しないことが当然だと私が思っていたのは、私が「支持しない側の物語」を信じているからだという視点をこの本から得ました。戦争を支持する側しない側、それぞれに信じる別の「物語」があるんだと気づいたのです。

どちらの「物語」も社会に秩序をもたらすために作られたはずだった。それなのに、それぞれの「物語」の違いで衝突し、こんな惨劇を生んでしまう。

人が作ったただの「物語」なのにです。

 

歴史を紡いでいくサピエンス

この本の主張は「これが正解だ」ではなく、「こういう見方もある」というものでした。結びには、「進歩が悪い方向に進んでいるなら、物語によって苦しむ人がいるなら、方向も物語も変えていいんだし、変えられるんだし、変えられるのは自分たちだけなんだ」と書かれています。

私一人の考えが変わったからって、目が覚めたら世界がガラリと変わってるなんてことはありません。それでも、歴史を見るとほんの少数の人の小さな変化から広がって、世界は少しずつ変わってきました。

より良くしようと行ったほんの小さな変化が積み重って、結果的に悪い方向へ行ったこともあるでしょう。得られた結果には良い面もあれば悪い面もあったでしょう。

でも、そんな歴史に学びながら、ゆっくりとでも少しずつでも、思考停止せず諦めず、より良いと思う方向に変化していくことが人類の歴史を紡ぐ一員になることなんだと思いました。

歴史に名は残らない、無名の1サピエンスとして。

 

同シリーズ マンガ版「人類の誕生編」もあります。