異例のシーズン終盤退任:客観的成果と発表の衝撃

鹿児島ユナイテッドFCは2025年11月20日、相馬直樹氏が2025シーズンをもってGM兼監督を退任することを発表した。

相馬氏は元日本代表選手であり、S級ライセンスを保有し、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、FC町田ゼルビア、大宮アルディージャなどで監督を務めた経験豊富な指導者である。

今シーズンから鹿児島の監督に就任し、J3リーグ第36節終了時点で勝ち点65を獲得し、3位という順位にチームを導き、J2昇格プレーオフ進出を確定させており、自動昇格圏(2位以内)を射程に捉える位置にチームを導いていた。

相馬氏の指導力は、短期間でチームを昇格争いに食い込ませた事実から客観的な成果を達成しており、その人柄やプロフェッショナルな姿勢は SNS上の世論でも高く評価されていると筆者は見ている。

成績不振が理由ではなく、シーズン最終盤の 2試合を残し、J2昇格争い真っ只中のタイミングで発表された今回の退任について、ひとりのサポーターとして考察してみたい。

 

経営層と強化部門の対立:深層にあるガバナンスの齟齬

相馬氏の覚悟とクラブ側が提供するものとのギャップ

クラブは退任の経緯について、現体制での継続に向けた協議を重ねたものの、「強化組織における基本的なビジョン及びスタンスに相違があり、双方合意の上、契約を終了する事に至った」と説明した。

これに対し、相馬GM兼監督は自身のコメントにおいて、「クラブとの間では、フットボールそのものではなく、強化を取り巻くマネジメント面での考え方にシーズン当初から相違があり、ここまで慎重な話し合いを重ねてきましたが、このような結論に至りました」と、対立の原因が戦術論等ではなく、組織運営上にあったことを明確に強調している。

この「強化を取り巻くマネジメント面」での相違という表現は、監督業(戦術・トレーニング)の領域を超え、選手獲得、契約更新、育成部門への投資、施設改善、および強化予算の配分といった、一般にGMとしてクラブの将来的な基盤を構築する領域を指している。

相馬氏がシーズン当初からこの点で経営層と意見が対立していたと述べている事実は、経営層が強化責任者であるGMの専門的な判断や権限領域に対し、何らかの形で統制あるいは調整を試みていた可能性が高いと推察される。

これは、相馬氏がクラブへの挑戦に際して持っていた「覚悟」と、クラブ側がGMに提供した実質的な権限や資源の間に、埋めがたい大きなギャップが存在していたことを意味するであろう。

昇格争いにおける「不手際」:現場の士気よりも優先された内部事情

退任の公表は、チームがJ2昇格の可能性を残す「シーズン佳境の中」で行われた。相馬氏自身も「諸般の事情により、シーズン佳境の中、公表する事になったことをお許しください」とコメントし、さらに「来季以降に向けた準備も進めていた中で、このような形でクラブを離れる事になってしまったことは、私にとって本当に残念な形となってしまいました」と、決断のタイミングとその結果に対する強い遺憾の意を示している。

昇格争いの渦中における最高責任者(GM兼監督)の退任発表は、チームの集中力、士気、そして残りの試合に向けた準備を決定的に削ぐ行為である。このタイミングでの公表を選んだ経営層の判断は、内部対立がもはや隠蔽不能なレベルに達していたか、あるいは来季に向けた監督選定や強化準備を、現在のチーム成績の確定よりも優先せざるを得ないほど、時間的切迫感があったかのいずれかであると推察される。

いずれのシナリオであっても、これはチームの成果(昇格達成)よりも、組織の内部事情を優先した結果であり、現場(選手・スタッフ・サポーター)の努力に対する敬意を欠いた不手際と評価せざるを得ない。

 

成果を上げた指導者喪失による信頼資本の毀損

SNSの初期反応と相馬氏への高い支持

相馬GM兼監督の退任発表後、SNS世論の多くは、相馬氏が達成した競技面での成果を高く評価し、その指導力や人柄に対する支持を表明している。一方、その対極として、この成果を上げた指導者をシーズン終盤で失うことになったクラブの運営体制に対する批判的な意見が散見される。

この現象は、プロスポーツにおける成果主義の原則に基づき、競技成績という客観的な結果を残している指導者の判断を、経営層が覆したことの非合理性による結果であろう。SNS世論は、相馬氏の功績が大きかった分だけ、クラブのガバナンスに対する不信感を強めていると言える。

ステークホルダーの信頼を大きく損なうリスク

相馬氏がコメントで「一緒についてきて戦ってくれた選手、スタッフには感謝してもしきれません」と述べ、また、サポーターについて「溢れんばかりのエネルギーに満ちたホーム白波スタジアムの雰囲気も大好きでした」と言及している通り、相馬体制下で醸成された一体感が、今回の決定により崩壊する危機にある。

公式の退任理由が「ビジョン相違」という抽象的な表現に留まったことは、ファンやステークホルダーに対し、クラブの経営状況に関する情報の不透明性も印象づけている。

経営層は、選手やスタッフの士気、サポーターの熱意、そしてスポンサーからの信頼を損なうというリスクを冒した。

信頼資本の損失は、スポンサーシップの継続交渉や、新規サポーターの獲得、さらには優秀な指導者や選手の将来的な採用活動において、長期的なハンディキャップとなるであろう。MBC南日本放送などの地元メディアでも本件が報道されているため、この不信感は地域社会全体に波及し、クラブの地域における求心力低下を招く可能性がある。

 

構造的課題:ガバナンス不全とネガティブレピュテーションのリスク

相馬GM兼監督は、競技面で成果を上げ、さらには「来季以降に向けた準備も進めていた」にもかかわらず、クラブを離れることとなった。これはクラブの人的資源管理(HRM)における重大な失敗を示している。

成果を出しているプロフェッショナルな指導者に対し、クラブは長期的なコミットメントを確保するための適切なインセンティブ(権限、強化予算の確約、長期契約の約束)を提供できなかったと考えられる。これは、クラブが相馬氏の市場価値と、彼が求めるプロフェッショナルな環境のレベルを認識できていなかったことを示す。

この失敗は、将来的に優秀な監督やGMを採用しようとする際、「鹿児島ユナイテッドFCは成果を出しても、フロントが強化を妨害する」というネガティブレピュテーション(悪い評判)を形成し、採用活動における大きな障害となるであろう。

そもそも、今回の退任劇が示した最も深刻な構造的課題は、クラブにおけるガバナンスの機能不全、特にGM権限と経営層の統制の境界線が曖昧であった点にある。

相馬氏は、強化戦略を統括するGM=ゼネラルマネージャーの立場でありながら、「マネジメント面」で経営層と意見が対立した。これは、クラブの最高意思決定機関(取締役会)が、GMに委任すべき強化に関する専門的な決定事項に、経営上の論理を過度に持ち込み、専門的な判断を軽視したことを示している。

クラブ経営層は、J2昇格という目標達成に必要な強化レベル(相馬氏のビジョン)を理解し、それに見合ったリソースを確保する責任があった。しかし、実際には意見の対立を引き起こした。この姿勢は、スポーツ組織経営における競技専門性の尊重原則を破るものであり、強化トップに対する信頼の欠如が根本的な対立を引き起こしたと言えよう。

 

提言:危機を乗り越えるためのクラブ経営の再構築

鹿児島ユナイテッドFCにおける相馬GM兼監督の退任は、クラブ経営におけるガバナンスの脆弱性、特に経営層との間の優先順位の齟齬と、強化責任者に対する権限委譲の範囲に関する意見の相違が長期化した末に露呈した、組織的な危機事例であると言える。

これは単なる退任劇ではなく、クラブがプロフェッショナル組織として将来的に成長するための基盤、すなわち専門性、信頼性、そして戦略的な財政安定性を根底から損なうものである。

経営層が示すべき長期的な戦略と、現場の専門的判断との間で調整が図れなかった事実は、クラブの持続可能性に重大な懸念を投げかけるであろう。

経営ガバナンスの再構築

クラブが今後、同様の組織的な混乱を回避し、プロフェッショナルな運営体制を確立するためには、以下の戦略的な提言を実施することが不可欠であろう。

GM職の再定義と分離:
GM職を監督職から分離し、専任のGMを配置すべきである。GMには、スカウティング、選手契約、予算要求、および育成戦略に関する明確な専任権限を付与する。経営ボードは、GMが策定した強化戦略がクラブの中期経営計画に沿っているか、そしてクラブ全体の財政リスクが許容範囲内であるかを監督する役割に徹する。これにより、現場のオペレーションとガバナンス機能の分離を図り、今回の対立の原因となった「マネジメント面」での権限の曖昧さを排除する。

危機コミュニケーションの透明性向上:
今後の重要人事の決定やクラブの方針変更に際しては、ステークホルダーに対し、単なる抽象的な言葉(例:「ビジョン相違」)ではなく、具体的な経営判断の根拠(例:特定の強化予算案に関する合意に至らなかった経緯)を、可能な範囲で開示する透明性を確立する必要がある。これにより、不必要な憶測を防ぎ、毀損した信頼の回復に努めるべきである。

暫定的なチームマネジメント

当面の措置として、J2昇格争いを戦っているチームの動揺を最小限に抑えることが最優先される。経営層は現場の士気維持に専念すべきである。相馬氏は選手・スタッフに対し感謝の念を表明しており、彼らの感情的なつながりを尊重し、残りの戦いに集中できる環境を整備することが、クラブに残された唯一の危機的状況を乗り越えるための道筋となる。

 

サポーターへ:今こそチームの力に!

今回の退任劇は、クラブの運営体制の深刻な課題を露呈させました。この激震の影響を最も受けるのは、ピッチ上で戦う選手たちと現場のスタッフに違いありません。彼らはプロとして残りの試合に全力を尽くしてくれるでしょう。しかし、組織内部の混乱は少からず士気に影響を与えます。

今、私たちサポーターがなすべきことは、クラブフロントへの批判を強めることではなく、最後の笛が鳴るまで、チームを感情的に支え続けることと考えます。クラブが安定しているから応援する、強いから支持する、という姿勢は、真のサポーターの精神とは言えないでしょう。

危いからこそ支える。弱いからこそ応援する。それでこそサポーターであると私は思います。

経営上の問題は、オフシーズンに徹底的に議論されるべきです。しかし、この瞬間、チームは歴史的な昇格を掴む瀬戸際に立っています。クラブの困難な状況下で、選手たちはあなたの声援という絶対的なサポートを必要としています。

白波スタジアムを、SNSを、そして街中を、最高の熱気で満たし、この混乱を乗り越えるエネルギーをチームに送り込みましょう!

滾れ!薩摩のサポーター!