現実離れした不条理な世界で、否応なしに他者、自分、そして人生と向き合い、成長していく少年の心を描きます。

この作品を完全に理解できたか?と問われれば、正直全くわかりませんでした。
しかし、心に響くもの、感じるものが確かにあり、それが私を強く惹きつけ、たまらなく魅力的に感じられました。

 

「Sonny Boy -サニーボーイ-」の評価


見てもらいたい度:🏝️🏝️🏝️🏝️🏝️ (5/5 満点です!)

※「評価」と記していますが、あくまでも「私がどう感じたか」という好き嫌いの表明に過ぎません。もし、この記事が作品に対する "一つの異なる視点" を提供できていたら幸いです。

 

オススメ・ポイント

これは「蠅の王」。…と思いきや!?

1、2話の辺りまで、朝風がジャックで明星がラルフという配役の、超能力版「蠅の王」なんだな、と思って観ていました。

しかし、早々にその予想は裏切られます。

その後、どうやって元の世界に戻るかの謎解きファンタジーかと思っていると、学校の先生が唐突に登場してくる辺りから展開が予測不能になってきます。7話からは世界観が決定的におかしくなり、超現実的な展開へと一気に雪崩れ込んでいきました。
世界が無茶苦茶になるにつれ、それぞれの登場人物が飾らない正直な自分をシンプルに自覚し、素の心を徐々に露わにしていきます。

この予想のつかないストーリー展開が、まず一つの見どころです。

 

圧巻の世界観

話数が進むにつれてどんどん異様になっていく世界は、作り手の想像力が爆発していくかのようで圧倒されます。

漂流後の自然の法則無視のなんでもありの世界、自由度 MAX の世界で、設定・シチュエーション・エピソードを考え出し、どれを採用するか決めることには相当な困難があると想像します。

話数を重ねるごとに不条理さが増し、混沌としてくる世界。その中で、思いのほか平然と行動している主人公たちに強烈な非現実感を覚えます。奇妙で異様な世界観でありながら、ストーリー、登場人物の行動、気持ちに整合性が感じられるのが本当に不思議でした。

 

苦いハッピーエンド

向こう側の夢の中のような世界で人生を見つめ直した少年が、憂鬱で灰色の現実世界で取るに足りないちっぽけな自分に戻り、それでも前を向き笑みを浮かべて歩き出す最終話は、私の心に深く爽やかな痛みを残しました。

見事な青春の描き方だと思います。

 

余白を楽しむ作品

SF、ファンタジーに見えて、芯の部分は青春アニメであり、主人公の心の成長を描く物語でした。青春ものらしく劣等感・無力感・三角関係も出てきます。それが混沌とした世界観の中できっちり描かれていることに驚愕、脱帽です。

私は傑作だと思うのですが、きっと賛否両論出る作品だろうとも思います。

何かこれといった答えを出すということもなく、考える余地、想像の余地、解釈の余地を楽しむ、そういう作品じゃないかと思います。

希の存在、瑞穂の存在、明星の、朝風の、あき先生、その他登場人物それぞれの存在の意味、それぞれの立場から見たそれぞれの存在の意味。様々な寓話、希の見た光、持ち帰ったコンパス、校長、帰る選択・残る選択、その意味すること、自分だったらどんな選択をしただろう?
こうした解釈の幅、考える余地、余白こそが、この作品の最大の魅力です。

本編そのものの面白さに加えて、こんなにも沢山の余白を残してくれる作品は、そうそうないと思います。

 

オススメの回

第8話『笑い犬』です。

犬先輩 ”やまびこ” の回想によって描かれる心の物語で、単体で寓話として観ても作品として成り立つエピソードです。

『後悔ばかりしている。そしてそれをまた後悔するんだ』とか『いつもそうなんだ、つい間違えちゃうんだ、そして最後には嫌われてしまうんだ』などのセリフで、観る者の心をグサグサと刺してきます。

 

「Sonny Boy -サニーボーイ-」後半の雑感

※ネタバレあります!


私は、後半に進むにつれてどんどんこの作品が好きになり、8話以降はもう釘付けでした。同時に、あまりに心揺さぶられるもので、観るのがしんどくもなっていきました。常に冷静で和やかな ”ラジダニ” の存在が救いでした。

 

第9話『この鮭茶漬け、鮭忘れてるニャ』

猫の声と会話の内容がおじさん、おばさんのそれで、見た目との相違が可笑しく、不条理感が増します。

白猫のさくらが、瑞穂のことをずっと子供だと思っていて、自分が守ってやらなければと考えているところなど、確かに猫はそう考えてそうだと感じられる点が面白いと感じました。また、これが第11話に切なくつながっていく演出も素晴らしいと思います。

 

第10話『夏と修羅』

ショッキングな回です。

朝風の欲望が露呈する『あき先生のxxxx』発言の生々しさもショッキングでしたが、この世界に死を作ると張り切った挙句、ああなってしまうとは。校長と骨折ちゃんのセリフから想像する、あの時の朝風の心の中が怖いです。

あと、あき先生の笑い顔が般若に見えてとても怖い。

 

第11話『少年と海』

美しい音楽、美しい映像、美しい心、美しい行為…。没頭することで誤魔化し、せき止めていた心が、希の『もう一回友達になろう』で溢れ出してしまう

その姿に私の心も激しく揺さぶられ、続く瑞穂の『わたし、猫、捨てたんだ…』で感情が溢れ出しました。

 

第12話『二年間の休暇』

”やまびこ” と ”こだま”、こうもり先輩も出てくるのはボーナスですね。

雑然とした街、憂鬱な雨、汚れたドブ川。青空ときれいな海の漂流世界との対比が凄まじい。脱出のときはあんなに活き活きとしていたのに、今は虚ろで冴えない表情をした主人公。この世界に戻ったほうがよかったのか?という場面を、いやというほど見せてきます

話の途中でふいと朝風の方に走っていってしまう希。しかし、主人公の選択した世界に、希は確かに存在していました。

『世界は変えられない』

それは、あきらめとは違う言葉でした。

 

余談

あき先生役が「転生したら剣でした」のフラン役と同じ方(加隈亜衣さん)とは!その演じ分けの幅広さ、声優さんの演技って本当に凄いです。

 

「Sonny Boy -サニーボーイ-」の関連リンク


 

 

この世界観は、量子力学の「多世界解釈」に通じるものがあると感じて、何冊か本を読んでみました。難しいけれど、面白かったです。